公開実験後の記者会見 2011.1.20
公開実験

2011年1月20日(木)に、試験体No.4の公開実験後に行われた記者会見の録画ビデオを公開します。発表者は、当委員会の委員長、鈴木祥之です。ビデオは前半と後半に分かれており、前半は実験の概要説明と試験体足元を撮影した映像、後半は記者との質疑応答で構成されています。

公開実験後の記者会見:前半
結果発表と4分割画面の映像

(※ビデオの冒頭で音声が聞き取りにくい箇所があります。下記のテキストをご参照ください)



(この前、途切れています)…少し報告させていただきます。BCJのL2、第2種地盤用にということで修正したものですが、これを長辺方向、短辺方向と加振実験しました。それで、当初から、ねじれ、といいますか、偏心をもたせていますので、1構面といちばん南側の構面と大きく変形しながら揺れていたのが分かったと思います。あらためてどれくらいの変形になったかということを、放送でも申し上げましたが、もういちど申し上げます。

長辺方向加振

長辺方向加振の場合で、一層で97ミリ、これが約1/30の変形角、二層が78ミリ、これが1/33の変形となります。その時の柱脚の移動なんですが、最大で長辺方向が46ミリ、短辺方向が42ミリ。ということで、長辺方向の加振ですけども、直交方向の短辺にも、柱脚の移動が見られます。

短辺方向加振

引き続き、短辺方向加振の場合の結果ですが、一層の短辺方向で146ミリ、これが1/18の変形角、二層が68ミリ、これが1/38の変形角となります。合わせて、長辺方向でも一層二層併せて、50〜60ミリの変形があります。柱脚の移動は、短辺方向に96ミリ、長辺方向に58ミリ。ということで、この長辺方向、短辺方向の加振に関しては、あらかじめ解析シュミュレーションでやっておりましたように、まあまあほぼ想定していたような結果になったかなと思います。少し予想と違っていたのは、直交方向の柱脚の移動が、解析よりは大きく出たかなと思います。

評価:倒壊せず。補修可能な範囲の損傷

ということで、2階建て、石場建ての建物の試験体を使って、柱脚のすべり等を検討するのと合わせて、各部の損傷、これを検証していくという意味合いで実験してきましたけども、損傷については、長辺方向で小壁の亀裂が入ったのと、短辺方向では1通りの2Pの壁に亀裂と剥離というような形で、大きな損傷が入っています。

それで、大地震の設計のクライテリアとして、いわゆる、構造的な安全性を確認するということなんで、大破、倒壊という形には至っていません。木部の軸組に関してはほとんど大きな被害は見つかっておりませんので、土壁の損傷部分を修理して、という形で補修が可能、今後も使い続けられるということになろうかなと、一応、設計のクライテリアは満たしたと思います。それでは、ビデオの再生をお願いします。

ビデオ再生:長辺方向加振

建物が全体的にねじれながら揺れたのがお分かりいただけると思います。損傷して表面的によく目立ったのが、小壁の亀裂ですね。ちょうどここに貫が入ってまして、実はその後の加振であまり進展していないので、それほど大きな損傷にはなっていないかなと思います。

こちらでも映像をご覧いただけます。

ビデオ再生:短辺方向加振

(足元のアップ映像について)これは柱ではなくて、束なんですね。

こちらでも映像をご覧いただけます。

公開実験後の記者会見:後半
質疑応答

質問者1:朝日新聞 野呂記者

朝日新聞の野呂です。さきほどちょっと先生もおっしゃっていましたが、バランスの悪い家建物、というのが第一印象です。総二階で160平米というのは、なかなか現実的でないし、実際に各地で建てられている石場建ての伝統構法の家というと120から130平米ぐらい、下屋がついていて、という感じですしね。だから今回の試験体の狙いとしたら、柱も非常に細いと思うんですけど、あえて、バランス悪く作った、ということでよいんですか?

まずはね、伝統構法の下屋付きの、というイメージの建物を実験するのではなくて、まずは、計算にのるのかどうか、というのがひとつの大きな目標なので、偏心とかバランスの悪さというのが、そういったところが計算と実験でちゃんと検証できるかというのが大きな狙いなんですね。そういうことができたら、設計法で、バランスのいい建物をつくるためににはどうしたらいいのか、という方向にもっていきたい。

いわゆる下屋つきで、伝統構法のイメージの建物に関しては、もう2年先にやらしていただきたいな、と。それは今構築しようという設計法ができたあかつきには、その設計法を用いて、いわゆる伝統構法らしい住宅を設計して、それをこの震動台で実験させていただければと思っています。

ようするに、設計法はね、静摩擦の限りで作ってですね、そして建築基準の枠内でやれる、と。そもそも前回の委員会の人たちは動摩擦も必要なんだ、というようなことも言っていた人もいたような気がするんですけども、それはいわゆる想定外、巨大地震はそもそも法律の枠内では想定していないのですから、静摩擦で設計法は作ればいいのではないかと思うのですが、そのへんはどうなのでしょうか?

地震の時に、静摩擦なのか動摩擦なのかということなんですけど、われわれが今問題にしているのは、どちらかというと、動摩擦の方なんですね。今ですと、0.35から0.4ぐらいの動摩擦係数になろうかと思うんですけれど、いわゆる静摩擦の方はもう少し大きな値になるんですね。

で、そっちの方で設計するのか、動摩擦でやるのか、静摩擦でやるのかということですけど、解析に使って検証しているのは、動摩擦の方なんですね。静摩擦というとは、ある瞬間でも、滑る前に、ご覧のようにロッキングしたり、いろいろしますので。いわゆる静的に静かにクッと引っ張るような実験には静摩擦の方が合ってるとはと思うんですけれど、こういう大きく揺らす場合には、どっちがいいのかなということで、解析は動摩擦でしています。時刻歴応答の方ははみなさん、動摩擦を使うんですよね。

70センチ角と伝統構法としては柱が細いんですが、これは、どういう想定で

それは、次のJMA神戸でもう少し大きく滑らそうと思って。滑らないような設計もあるかとは思うんですが、今回はできるだけ大きく滑る状況も見たいということで。

最後に、委員会がいくつかあると思うんですけれど、ぜひ、石場建ての設計法がこれからできるにあたって、大工棟梁など実務者を数多く入れてほしいと思います。まさにできようとしている設計法が実務者に使いやすいものがとなるために、実務者をより多く、入れてほしいです。

設計法部会に設計法、解析、簡易設計法の3つのWGがあるんですが、基本的な設計のクライテリアとか、概念的な設計法をつくっているのは、ほとんど実務者です。解析のところは大学の研究者が多いんですけれど、本来は私どものような研究者よりも実務者たちがつくるのが本来のすじみちかと思うんでね。ということで、実務者たくさん入っていますので、ご心配なく。

だんだん、設計法の概念がかたちづくられていくと、さらにもっと実務者の方々に入ってきていただいて、自ら設計していただいて、指摘していただいて、と思います。大学の先生がつくっている設計法は、今、いっしょうけんめい解析してます、私ども汎用設計法と言っていますが、いわゆる3次解析でな骨組みモデルをつくって、という詳細で精緻な設計法の方でして、そういうのは研究者やっていますが。

質問者2

大大特の時の実験の時に、石場立ての建物を揺らした時にですね、先生は偏心率はそれほどに考慮するものではないとおっしゃったような記憶があるのですが。あの時もたしか一面にだけ壁があって、うんと偏心していましたよね?

あれは偏心率1を超えるやつでしたからね

で、今回は偏心率は0.3ということですが、先生がおっしゃっていたことと整合するんでしょうか?

あの時はもう、ほとんど耐力要素、ないですよね。軸組の周囲にちょっと小壁がついているだけで、全体的な耐力が小さい。一番奥のひとつの構面だけに壁が入っていて、大きな偏心率でした。

今回は、あの時の試験体とは大分違いますね。全体的な耐力が大きいです。あの時になにを検証したかったかというと、そんなに大きな耐力がなくったって、変形性能があれば、大きな地震に遭ったって、建物はもつんですよ、しかも、足元が滑れば地震力は上に入りませんよ、というその2点を検証したかったんですね。

今回は、あれじゃ、住めませんので、少し壁も入れて、実際に住める建物としてつくったわけです。今回でも私のイメージにしてみれば、ちょっと壁量が多いような、もうちょっと抜いたら、なんても思うんですけど。

よく分からなかったのですが、今回の土壁の仕様は、告示と同等ととらえてよいのですか?

いや、告示の土壁仕様は厚さが70ミリ、竹小舞の間隔が非常に小さいです。今回の試験体の土壁は厚さが60ミリ、京町家とかで使われてる、薄い壁です。告示の仕様にはまったく合ってません。

2階の屋根の真裏の妻壁だけ、そこだけ土が塗られてないんですが、なんでかなーと思ったのですが、なぜですか?

じつはですね、これを作る時に設計段階で解析とかいろいろやりましてね、結構耐力をあげてたので、もう少し減らしたいということで、最後土壁を塗る時に、土壁の量を少なくしたかったので、ああいう形で、塗らずにおきました。

あれでモードが変わるということは…

あります、あります。あまり偏心しなくなりますからね。最初に研究者が設計すると、非常にキレイな設計をしましたので、それから少しずうはずして、現実的な対応がとれるような試験体に変えていったわけなんですね。

現行基準法に添ってない部分としては、まず足元が止まっていないと。土壁が告示と同等でない、火打梁も入ってない。それ以外には合っていないところがありますか? 壁量計算は満たしているのですか?

壁量はけっこうあるんですが、現行基準法だと小壁は壁量換算しないので、それを抜くと足りないかな。小壁まで入れてそこそこの耐力ですよ、という感じです。いわゆる在来工法の仕様規定との違いで言いますと、まず足元が石場建てだから違うのと、そして壁量計算、そして仕口のところの金物補強もしてませんので。