公開イベント

2010年6月5日 記録ビデオと発言録: 実験検証部会 後藤正美 主査

フォーラムの記録ビデオを公開します。ビデオは基本的にプログラム毎に分割し、記録時間が長いものはさらに複数のビデオにわけてあります。各ビデオはパソコンの小さな画面でもわかりやすいように編集を施してありますが、発言自体はノーカットで収録しています。

実験検証部会の方針(part 1)
後藤正美 主査

実験検証部会の3つの目的

ただいまご紹介にあずかりました実験検証部会の主査をさせていただいております金沢工業大学の後藤といいます。鈴木先生の方から先程概略はざっと説明があって、だいたいそう変わらないんですけれども、もう少し細かい話をという風に思います。実験検証部会に細かい課題はいっぱいありますが、大きな目的は三つあります。

ひとつは伝統構法の力学的な特性というのを、結構、ことばとかそういうのでは色々本とかに書いてあるんですが、実際に数値、定量的にどういう風な効果があるかとか、そういうのをきちっと把握しようというのがまず第一です。二番目は、今ほど斉藤先生から色々設計法についてご説明がありましたけれども、そういうものに対してちゃんと検証していくと。設計法と設計したものがちゃんとそれなりの性能を発揮しているかをということを検証する。三番目はデータベースとも関係するんですけれども、そう言う風にして得られたデータをちゃんと実務の方に使っていただけるように、データベースとして公開していくと、大きな三つの役割があります。

3カ年の計画

じゃぁ実際、実験検証部会、これから三年間でどういうことをするかということですけれども、今年度十二月から一月にかけまして、Eディフェンスの方で実大の振動実験をすると。そのまず大きな目的が、先程もいいましたけれども、定量的に色々な特性をきちっと測るということがまず一番です。その測った現象がどういうメカニズムでそういうことが起こっているかという辺りを分析・解明するということです。ですから、今年の試験体、後でまた概略をご説明しますけれども、かなり研究的な色合いの強い試験体になっています。その代わり、来年度は一般的な伝統構法という、これはこの後の構法・歴史部会、麓先生の方の部会とも色々検討合わせまして、日本の伝統木造というものを少し絞り込んだ 形で試験体作成するということがメインになります。2012年度は、斉藤先生の方で作られた設計法を検証するということと、データベース、なんでもかんでも実験したデータをそのまますぐ公開するっていうのが一番楽なんですけれども、色んな条件がありますので、設計として使うためのデータベース、ですから設計法と密接に関係する訳ですね。ただ実験をしてデータを公開する訳にはいかない。設計法でこういう風な使い方をするので、こういうデータが必要だと。その辺を設計部会と連携を取りながら、どういうデータにしていくかという検討を進めて公開していくということを考えております。

それを模式的に書きますと、今、真中に実験検証部会を書いておりますけれども、これは実験検証部会から見ると、ということですので、他意はないですけれども。実験検証部会としては、それぞれの部会と密接に連絡を取りながら、双方向でデータや情報を検討しながらやっていくと。データベースワーキングがありますけれども、データベースとして作ったものが、本当に実務の方に使って貰えるようなシステムになっているか、そういう検討も含めた上で、全体としてはこういう位置づけで進めていくことになります。

3つのワーキンググループ(実大振動実験WG、構造要素実験WG、土壁WG)とデータベース

実験検証部会の中には、どういうワーキングを設けているかということですけれども、一つは、このEディフェンスの実験をきちっとこなすという実大振動実験ワーキング。この中には必ずしもEディフェンスだけではなくて、例えば京都大学の防災研究所にある中規模振動台を使った振動実験。そういうのもまぁ、構造要素実験と連携してやっていくということになります。

それから、次は構造要素実験。今度実験するEディフェンスの試験体をどう説明できるか、説明するための構造要素、それを優先的に色んなデータを取ろうと考えておりますけれども。一般的、日本全国色んな構法があると思いますけれども、そういう一般の型、それが先程の歴史・構法部会等々、伝統的な建物の構造要素、耐震要素でもいいんですけれども、そういうものを少し検討してそういうものに対して実験をしていくと。ただ先程、鈴木先生も斉藤先生も言われていますように、伝統構法の耐震性能というのは、変形性能があって、なおかつ、そこそこの耐力があると。特に変形性能を見たいという訳ですから、今までみたいに剛性と耐力だけを実験で評価するっていう、そういう実験方法とは若干異なる方法が必要じゃないかということですので、その実験方法についても検討していくということでございます。

それから、土壁ワーキングということで、土壁には今告示仕様がある訳ですけれども、なかなか告示仕様の土壁は使いにくいと。私は金沢なんですけれども、小舞にしても竹小舞、金沢は葦を使うとか、それから組み方にしてもどういう感覚で組むかとか、色んな土壁があります。それから、土も日本全国で色んな土があると。そういうところを、建築材料専門の先生に主査になっていただいて、基本的なデータを今年取っていく。それから、土壁の設計法に使えるようなものに展開するというようなことを考えています。

こういう風にして、実験をして得られたデータをデータベースとしておいていく訳ですけれども、データベースのもう一つの役割として、実務の方に設計法に使っていただくデータ、プラス、実験をしたデータをちゃんと残しておくと。将来、若い研究者、先程鈴木先生からも若い研究者の方にドンドン参加して欲しいということがあったんですけれども、いざ研究的に検証しようと思った時に、Eディフェンスでやった生のデータで色々検証したいとかいう研究者の要求もあります。そういうものに対しても設計法だけではどこまで公開できるかは検討を要するんですけれども、なかなかボリュームがあります。実大実験するだけでも何百チャンネル、データの量も何ギガか、もっと凄い量がでてきますので、それをどういう風にして公開していくかについて検討が必要なんですけれども、そういう風な形で、データベースとして残していきたいという風に思っています。

今年度の実大実験でやりたいこと〜柱脚、バランス、建物が潰れないこと

とりあえず今年度、Eディフェンスの実験、目的はいっぱいあります。知りたいことはいっぱい山ほどあります。ただ、予算も時間も色々限られています。その中で少し厳選して、絞り込んだ形で今年やると。特に今年やりたいのは、柱脚の移動、移動するのかしないのか、それと礎石と柱だけではなく、上部構造の構造特性と足元の滑りが密接に関係しているということが少しづつ解ってきていますので、そういうのもきちっと把握したい。それから水平構面、バランス、建物はやっぱりバランスが大事だという風に思う訳ですけれども。水平方向バランス、それと上下方向のバランス、そういうバランスをしっかりとある程度取ると。そうなった時に、どういう建物の挙動をするかと。一般的には偏心率とか剛性率という言葉があるんですけれども。伝統木造でそういう言葉が使えるかどうか、ちょっと解りませんけれども、とにかくバランスを見たい。最後は、建物が潰れない、先程斉藤先生の方からクライテリアを把握したいということですけれども、実験的に事例を積んでいくということをやるということです。

実験検証部会の方針(part 2)
後藤正美 主査

今年度の試験体は4体

とりあえず年度末の十二月から一月にかけてですけれども、今計画している試験体は四体計画しております。一層の試験体が二体、試験体№1、№2と呼んでいます。二層の試験体を二体、№3、№4。平面形をどうするか、色々議論があるところですけれども、先程も言いましたけれども、今年は耐震性能の方をきちっと定量的に把握するということが一番の目的ですので、二列三室型という形で試験体の平面形を特定しまして、それに対して行いたいという風に考えております。

実験〜その1

それでまず一つ目ですけれども、足元、先程鈴木先生のビデオで実物の建物で揺すった時に足元が動くということでしたけれども。その後、京都大学の方で振動実験、こういう構面でやっていただいた結果ですと、足元が滑らない、上部だけが揺れる、それから足元が滑る、カタカタやる、滑りながらカタカタ鳴るというような、少し映像を見ていただいたらいいのですが…最初の映像は、ほとんど足元が動かない。石場建ての試験体ですけど。(映像)これは、少し足元がカタカタ鳴りますけれども、ほとんど移動していない。上部の構造だけが揺れていると。ちょっと時間の関係もあるので、次の映像を見ていただきますけど。一方、今度は同じような試験体ですけど。(映像)これも水平方向には、ほとんど移動していない。カタカタ、ロッキングするというような挙動になります。じゃぁ実際の建物でどういう現象が起こるのか。今、単位構面でこういう実験をしている訳ですけれども。ですから、こういうのを見たいということで、先程あったような二列三室タイプの少し細長いタイプ、柱がこう何本か繋がっているようなタイプの試験体をしたいということになります。

それから、先程鈴木先生のお話があったように、変形性能とそこそこの耐力ということですけど、試験体の上部構造をガチガチに硬くして剛体的にしますと、石場建ての上に載せておくと、地震が来たら建物がそのまま飛んでいくというのは、たぶんお解りだと思います。一方で柔らかくフニャフニャした、もの凄い柔らかい建物は確かに振動では動きませんけれども、耐力がないために倒壊してしまう。そうすると伝統構法として目指すのは、その中庸、この辺(黄色の部分)ですね、そこそこの耐力とそこそこの変形性能があって、余り堅くは作らないというか、石場建てに載っている訳ですから、余り堅く作ってしまうとポンと飛んでしまうと。そうすると、ある範囲の中に建物の特性をおさめるという、この辺が非常に難しいかな、ということになります。そういうことを、実験で少し検証したいということになります。

ですから、ここでは柱脚の摩擦係数と上部の建物の耐力・強さをパラメーターにした試験ということになります。

試験体の1は摩擦係数、礎石の表面の粗さを一定にしておいて、 耐力要素の量を色々変化させる。2番は柔らかすぎる、1番はそこそこ、ひょとしたら3番も滑らない、4番になると大きく滑るというような、上部の構造によって足元が滑る、滑らないというのが一つ明確になるんじゃないかと考えております。

二つ目は礎石の少し表面を換えまして、摩擦係数が小さいもの、だいたい標準的なもの、少し粗いものと。これも予備実験をしまして、ちゃんと決めたいと思いますけれども、そうすると、今度、摩擦係数が大きければ滑らない、小さければ滑る、という様なことが想定できる訳です。ただ、本当にそういう風になるかどうかは、少し実験で確かめないといけないと思います。

実験〜その2

次は実験の2の目的ですけれども、斉藤先生から水平構面の話がありましたけれども、建物の水平方向のバランス、それと上部方向のバランス、先程鈴木先生のお話もあったように、2階を硬くし過ぎると1階だけが変形が進むと。そうすると1階と2階のバランスをそこそこにしてあげることで建物全体が振動に耐えると。この辺が、特に木造の今の設計で欠けていると思います。できれば、そういう試験体をしたい。

これは三年前の能登の地震ですけれども、非常に珍しくて、1階は何ともないんですけれども2階が倒壊している。ですから、ふだん地震の被害調査に行くと、1階が総崩壊して2階が残っているということで、ついつい2階に気が周らなくて、あんまり気にしなくていいみたいな感じがあるんですけれども、配慮を欠くとこういう被害も起こってしまうということになります。

ということで、2階建ての建物に対しては、上部の影響を見たいということで、この試験体だけは足元を留めます。土台仕様として試験体を設定して、上部構造だけに注目して実験をするということを行いたいと思っています。

試験体の4のほうは石場建てにして、実際に近い建物の状況で、どの位の変形で壊れるのか。色んな、これも実験の目的はあるんですけれども、一番知りたいのは設計のクライテリア。伝統構法の場合、1/10くらいまでは十分に変形するということもあるんですけれども、設計として考えた時に、どの辺で押えればいいのかという辺りのデータを提供していくということを考えています。

実験の予定ですけれども、12/25から1/24の一か月の間、試験体は四体です。公開実験を今予定していますが、少し詳細な日程が確定すれば、直ちにHPでご案内します。

ほか、要素実験で取りたいデータ

後は要素実験の話ですけれども、色んな要素があると。石場建てのこういう試験体を静加力実験でデータが取れるのかということもあるんですけれども。その辺も少し検討して、要素としてのデータを蓄積していくと。接合部も、色んな接合部の実験の方法がありまして、本当に伝統構法に適切な接合部の実験方法ってどんなんだろう。まずそこから議論が始まるかとは思うんですが、少し検討しながらデータを取って行く。これは礎石の摩擦係数をこういうテーブルみたいなものを作って、上に錘を載せて、振動台の上で動摩擦係数を計測するという様なものです。

土壁ワーキングは、特に土の物性と強度の関係、それから土壁の強度因子ということで、先程ありましたように、こういう土壁を全面で作るのではなくて、これも試験体の寸法とかも色々考えて決定しないといけないんですけれども、小舞を組んで、ある程度の要素で、特に小舞と土の付着強度みたいなものに着目したような実験をしたいなと思っています。

データが蓄積、公開されていくようなシステムを

後はデータベースワーキングですけれども、データベースはこの実験の三年間だけ公開しても全く意味がなくて、未来永劫ずーっとそのデータが蓄積されていって、それがドンドン公開されていくというところに意味がある訳ですので、先程越海さんにもお願いしましたけれども、この委員会は三年ですけれども、それ以降もちゃんとデータが蓄積されていって、ちゃんと公開されていくような、そういうシステムを作りたいということでお願いをしています。そういうものを作っていくということを今考えております。後は細かい話ですので省略します。以上で私の説明を終わりたいと思います。ありがとうございました。