公開イベント

2010年6月5日 記録ビデオと発言録: 設計法部会 斎藤幸雄 主査

フォーラムの記録ビデオを公開します。ビデオは基本的にプログラム毎に分割し、記録時間が長いものはさらに複数のビデオにわけてあります。各ビデオはパソコンの小さな画面でもわかりやすいように編集を施してありますが、発言自体はノーカットで収録しています。

設計法部会の方針(part 1)
斎藤幸雄 主査

伝統構法の特性を上手く活かした設計法

設計法部会の主査をしております広島国際大学の斉藤といいます。よろしくお願いいたしします。高い所ではなく低い席から説明したいと思います。今、鈴木先生の方からざーっと今度の検討委員会の目的、特に設計法について詳しく説明がありましたので、ほとんどもう私がいうことはないのですけれども。今、鈴木先生もおっしゃっていたように、伝統構法は大工・棟梁の技術、或いは経験、或いは先生は智慧とおっしゃっていましたが、そこに棟梁の思想が入っている訳ですね。そういうものに構造力学的な特性を解明して、それで伝統構法の特性を生かした設計法を作ろうというのが、今回の設計法部会の目標だと思っています。設計法の構築にあたって、今、特に限界耐力計算を使っていますと、計算法ばっかりに目が行きがちなんですけれども、単に計算法だけではなくて、伝統構法の特性を上手く活かした設計法ができた方がいいんじゃないかな、という風に考えています。もう一点は、実際に設計法を作って、使う側が全然使いようがない、或いは使いにくい、使ってくれないということになると、これはあんまり意味がありませんので、使う側が使いやすい設計法の構築というのが是非とも必要だと思います。

限界耐力計算を用いた詳細設計法と、簡易設計法の二本立て

設計法の内容については、詳細設計法と言った方がいのかどうか、今までやられている限界耐力計算を用いた設計法と、そういうものを使わない簡易設計法の両方を構築したいという風に考えています。そのためには、構造力学的に、先程もお話がありましたように、未解明な問題がいくつか残っていますから、それを実験的に、或いは解析的に検討した上で設計法を構築して、今年もまたEディフェンスの実験、或いはその前に色んな要素実験も計画されていますけれども、その実験の前に、現在やっています限界耐力計算、或いは時刻歴応答解析等を使って、一応、設計法の実際に試験体がどんな風に挙動するかということをまずやってみて、それで実際に実験をやって、実験とおそらくピタッと全部が合うっていうことはないでしょうから、どこがどうなのかということを、必ずフィードバックして、それで更に設計法をブラッシュアップするといいますか、よりいいものにしていくということで考えています。先程も話がありましたけれども、今やっている限界耐力計算法の手法というのは、基本的には実験で得られたデータを元に復元力特性を作成する、ということをやっていますけれども。そのためには、キチッとしたデータべースが必要でして、それをちゃんと作って公開して、実際に使いやすい設計法にしたいと考えています。

初年度は「伝統構法を生かす木造耐震設計マニュアル」のと同様な方法で

一応三年経過ですけれども、最初の年はどんな風にやっていったらいいのか、というのを随分と色々と考えたのですが、伝統構法というのは、非常に幅が広く、奥が深いですから、あらゆることを考えてやっていると、なかなか前に進みにくいということもありますので、まずは何が伝統構法かという議論をすると、これまた前に進みにくいですので、とりあえず例えば田の字型平面、或いは町家型、こういうものを具体的なものとして、まずは設計法を作ってみようと。

やりかたの基本は、マニュアルにあるのと同様な方法でまずはやってみようという風に考えております。これは皆さんもご承知の2000年の法改正で、新しくできた限界耐力計算を使えば、耐久性規定を除いては仕様規定の適用除外になる(=性能規定)ということで、これを何とか使えないか、ということで。ちょうどその時に建築学会で、木構造と木造文化の再構築特別委員会、こういう特別委員会ができて、ちょうどその途中でこの2000年の法改正があったもんですから、急遽、その中に限界耐力計算を用いた設計法ワーキングができまして、その成果がこの本の中にも入っているんですけれども。それを引き継いで、その後、全国で色々講習会なんかをやりまして、その結果この「伝統構法を生かす木造耐震設計マニュアル」が出版されます。今現在もう非常に数は少なくなりましたけれども、設計されている基本的な手法のほとんどが、この本に書かれているやり方に立脚しているんだと思います。

ですから、そういう現状もふまえて、いきなり全然違う手法で提案するっていうのも、これまた難しい問題がありますから、まずはこの手法にのっとって、それで、それ以降も色々研究・開発その他進んでいますから、そういうものも全部踏まえて、或いは今年また実験やる、その結果も踏まえて、更にいいものにしていくということであります。ところが、この後割とスムーズに確認が下りるようになったんですが、2007年の法改正で、また非常に難しくなったと。伝統構法で限界耐力計算を使うと、結局、構造計算適合性判定を受ける。これが非常にネックになっていまして、今現在は関西とかほんの一部の地域でしか実際には動いていないような状況です。このマニュアルにはいくつかの特徴があります。比較的とっつきやすい、ということがありますね。

地震や実験結果も反映させて

このマニュアルができてから後も、例えば木造が大きな地震被害を受ける。地震がいっぱいあったんですけれども。その中でも中越沖地震、能登半島地震とか、こういったものはかなり大きな被害を受けました。先程も鈴木先生から話がありましたように、Eディフェンスでもこの伝統構法に関しての実験が何度も行われております。ですから、今回の設計法部会では、その他にたくさんの要素実験、或いは解析的な研究もありまして、そういうもの全部フィードバックして、研究成果を反映させるということを考えています。木造の被害はやはりまさに実大実験そのものですから、まさに建物が崩壊した場合、或いはかなり大きな変形をしたけれども崩壊していない、色んなそれぞれ、その原因があるわけですね。そういったものをもう一度こういうものも全部見直して、反映できるものは反映させたいということを考えています。

よく、この伝統構法は地震に強いのか、って学生なんかもよくこういうことをすっと聞くんですが、一言でなかなか答えにくい。それで、これは新潟県中越沖地震、三年前に起きた地震ですけれども、柏崎っていうところはお寺が随分たくさんあるところでして、ちょうどこの円の中に三つの大きなお寺があって、ほとんど震源地からほとんど同じ距離で、たぶん地震動もそんなに変わらなかったのではないかと思います

ひとつは、これは一番最初にTVなんかでも登場した倒壊したお寺ですね。これは柏崎にある大きなお寺が二つあり、そのうちのうちの一つですね。一つは内陣といわれている檀家の人がお参りをしていく部分で柱を抜いていたということですから、屋根を大きなトラスを組んで、かなり無理をした構造ではなかったのか、という風に思います。この地域は過去に何度も大火があってですね、いわゆる土蔵造り、周りを分厚い土壁で覆って、その中で、この寺は中へ入ると本当にすさまじい状況で、倒壊はしていませんけれども、凄い状況で、実際の残留変形も相当大きなものが残っているわけですね。この場合は火災対策、或いは風が強いこともあって、かなり屋根の吹き土も大きくなっててですね、相当重い建物ですね。

もう一つ、これは先程の倒壊したものとほぼ同じ大きさのお寺ですけれども、これは一番スタンダードといいますか、少なくとも見た目は非常に丁寧に作られていて、この場合は非常に軽微な被害で済んでいる。実際、この横に鐘楼があって、鐘楼自体は実はちょっと動いているんですね。だから相当大きな地震の入力があったのは間違いないんですけれども、この場合は軽微な被害で済んでいる。こういう風に、同じ伝統構法のお寺でも倒壊したり、物凄い被害を受けたり、ほとんど被害を受けないというのがある訳でして。この辺が一つ、設計法を考える上でもやはり参考になることだと思います。

先程、鈴木先生からもお話がありましたけれども、最初のこの京町家の時は、いわゆるJMA神戸、兵庫県南部地震の時のあの強烈な地震動を入れても、実は、移築の方は足元はほとんど動いていないんですね。こういったことも、これから石場建てに当然参考になる話です。どうしても、伝統構法は床が変形しやすいということで、それの実験もやっておりまして、それがこのA棟・B棟ですね、関西版、関東版と。

設計法部会の方針(part 2)
斎藤幸雄 主査

今年度は、マニュアルを踏襲、足元、床の問題も含めて解決する設計法に

今、設計法部会では一応、設計ワーキング、解析ワーキング、簡易設計法ワーキング、三つのワーキングを作りまして、これはですね、全員でやると非常に大人数になりますし、限られた時間のなかでちゃんと成果をあげていかないといけないということで、一応役割分担をして効率よく進めようということです。中身はワーキングのタイトルと同じことですね。それで先程話をしましたけれども、今年度はまずはこういう田の字型、或いは町家型住宅を一応モデルにして、マニュアルにある基本的なやり方を踏襲して、今言ったような足元の問題、床の変形の問題、そういうものも全て含めて解決して、設計法に持っていきたいという風に考えています。

来年度以降〜範囲の拡大と簡易設計法

来年度以降は、今回はまずは建物を限定して進めようと考えていますけれども、その範囲をできるだけ拡大していく。もう少し色んなタイプのものでもその設計法がちゃんと適用できるようにしていきたい。この辺は場合によってはもう少し色んなものに合う様な設計法となるとですと、もう少しちょっと難しいことも入れないとできないということがあるかもしれません。

それでもう一つは簡易設計法ですけれども、今年は大きな基本方針を決めて、最初の年で出てきた成果を踏まえて、実験の結果も踏まえて、限界耐力計算に依らない設計法を作っていく。これは今は一方で四号建築物というのがある訳ですけれども、あの中ではいわゆる壁量規定、壁量に代表される強度にほとんど着目している訳ですが、特に伝統構法の場合は、強度と変形性能の両方考えた設計法が必要ですね。それから、耐震要素も今は例えば伝統構法って土壁しか対象になっていませんけれども、その他、小壁とか色んな貫とか色んなものが伝統構法の中には耐震要素・構造要素としてある訳ですから、そういうものをできるだけ盛りこんだ形の簡易設計法にしたいということです。

まずは設計のクライテリアづくりから

今年の具体的な検討課題ですけれども、最初の設計のクライテリア、これは先程もお話がありましたが、今まで特に限界耐力計算でやっていると、安全限界変形、損傷限界変形をどのくらい、それをクリアしているからOKだ、という風な感じで、具体的に本当にそれぞれの稀な地震動、或いは極稀な地震動、或いは場合によってはそれを超えるような地震動に対して、どれくらいの耐震性能を持たせばいいか、逆にいうとどの位色んな部位が損傷の程度をどの程度に抑えればいいか、この辺は非常に基本になる部分ですから、今日お配りしている資料の中にも少し載せてあります。ちょっと解りにくいですけれども。


拡大して見る

何か一応ちょっとたたき台を作ってですね、これについては、これから設計法部会の中で色々検討していきますけれども、やはりこの辺は共通認識をある程度持った上でやっていきたい。特に、例えば損傷限界変形も今は1/120以下ということなんですけれども、これは必ずしも伝統構法を前提に考えられた数字ではありませんので、もう少し大きくなってもいいんじゃないかなと。それならどこまでいいのかと、その辺の検討もしたい。安全限界変形も一応新たな告示が出て、原則1/30以下という風になっている訳ですけれども。それを超えた場合のどういう条件を満たせば、本当にどこまで大丈夫なのかといったこともきちっと詰めたい。やはり問題は、柱脚の評価を、この辺、後は色々先程も話があったことがここに書いてあります。

床、柱脚

床については、特に床が変形しやすい場合は、剛床の場合は片方に例えば壁みたいなものがあるとですね、全体が回転する訳ですけれども、柔床の場合はある程度かなりバラバラに動く可能性がある。全然偏心がない場合でも、こういう風に床が変形することによって、各構面で剛性の違いに依って変形が変わって来るという様なことがあります。こういったものをどうやって設計法の中に取り組むかということがあります。

それから、石場建ての柱脚については、まさにこれから検討するんですけれども、今現在は最近設計された柱脚にはどういう設計があるのか、或いはこれからどういうことがでてきそうかということをまず一辺調査してみようということで、今それを調べているところです。一方で、柱脚が設計の考え方としては、全く柱脚は動かないものだと、或いは動かないでちゃんと設計ができるかというあたりですね。動かないという場合も、いわゆる浮き上がりは許容しても水平方向には動かさない、何か取り付けてもとにかく動かないようにする。それがいいのか悪いのか。その辺についても、きちっと検討したい。もう一つは水平移動を許容してもいいのではないかと考え方もあります。

先程免震の話がありましたけれど、免震の滑り支承とか転がり支承なんてやっている免震はですね、それをもっと詰めて摩擦係数をできるだけ小さくして、入力をガッと落してしまうという、そういうやり方ですね、徹底したやり方が免震だと思いますけれども。こういう石場建ての場合に、水平移動を許容した場合はですね、これの一番いいところといいますか、非常に過大な地震がきた時でも、滑ってしまえばあんまりそれ以上大きな入力が入らないということはあります。ただ設計としてこれを許容するためには、無条件でというのはたぶん非常に難しい。もし万が一ものすごい大きな変形をした場合は、建物は仮に大丈夫でもそばにいた人が被害を受けるとかですね、そういうこともないとはいえないんでね。どのくらいだったら許容できて、その条件をどう設定するかっていうことがたぶん必要になってくると思いますし、動いても当然、建物の上部構造は安全性を確保できますよ、ということがないと当然ないと簡単にOKとはいえないという風に思います。いずれにしましても、最初から柱脚はこうでないといかんとか、そういうことは全く考えていませんで、あらゆる可能性を一応検討して、それで設計法に落とし込むといいますか、結果としてこういう風にしたらどうですかという風に持って行きたいと考えています。これは最後の方はわかりにくいので、今日は時間も余りありませんので、それぞれの地震動の大きさに対して各部位をどんな損傷に留めるべきかということは、皆さんも一度考えてもらったらいいんじゃないかなと考えております。

以上で私の話を終えたいと思います。皆さんの協力を得まして、何とか目標を達成したいという風に考えております。どうもありがとうございました。