公開イベント

2010年6月5日 記録ビデオと発言録: 検討委員会 鈴木祥之委員長

フォーラムの記録ビデオと全発言録を公開します。ビデオは基本的にプログラム毎に分割し、記録時間が長いものはさらに複数のビデオにわけてあります。各ビデオはパソコンの小さな画面でもわかりやすいように編集を施してありますが、発言自体はノーカットで収録しています。

検討委員会の目的と方針(part 1)
鈴木祥之委員長

皆さん、こんにちは、鈴木祥之です。今日はよろしくお願いいたします。私の方から「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験」、この検討委員会の目的と方針についてお話させていただきます。

今日は300人の会場ですけれども、この様にたくさん来ていただき、また、伝統構法に非常に関心が高いということで、私ども、心強く思っております。この検討委員会ですけれども、実務の方々から要望が大きかった石場建て構法、これも含めて伝統構法の設計法、それからその設計法を検証するような実験等を行っていくというのが大きな目的です。

実は、伝統構法の構造力学的なまだ未解明な課題がたくさんございます。それを振動台実験だとかあるいは解析、こういったものを通して構造力学的に解明するということをまず最初にやります。

そして設計法ですけれども、現在の限界耐力計算、あるいは簡易的な設計法、そんな色々な設計法の方法については、これからまた検討していき、そしてまた振動台実験で検証していくという風なことになろうかと思います。

もうひとつ、現在、伝統構法は本当に危機的な状況にある訳ですね。先程もお話がありましたように、2007年の建築基準法改正で、限界耐力計算を使うと規模にかかわらず適判をうけるという風なことで、所謂、申請の手続きが非常に煩雑になって、建築確認もそれ程下りていない状況なんですね。こういった状況を鑑みて、そういった当面の課題についても検討していきます。

この検討委員会の構成ですが、ここにありますように4つの部会、設計法部会、それから実験検証部会、構法・歴史部会、材料部会、この四つの部会を設けます。そして、事務局ですけれども、先程大江さんの方からご挨拶がありましたように、NPO法人 緑の列島ネットワーク、ここを中心に数名の事務局員を寄せて、頑張っていただいております。検討委員会で取り組んでいるひとつは、現在の危機的状況を何とか打開したいということなんですね。

ここにありますように、伝統構法の建物に関して、所謂建築基準法の中に明確に記載されていないんですね。ということで、非常に大きな混乱を招いているひとつの要因だと思います。ところが、2000年の建築基準法改正、これは仕様規定から性能規定型の設計法へと。そういう意味合いの中で限界耐力計算が導入されました。そして限界耐力計算は、様々な木造の仕様規定、これを適用除外できるという方法として導入された訳なんです。ということで、この限界耐力計算を使って設計をすれば、要するに、土台と柱を緊結するだとか、柱と横架材の接合部を金具補強するだとか、そういった仕様規定が外れる訳ですね。この仕様規定を外すことに依って、初めて伝統構法になるということで、この限界耐力計算を使って確認申請が下りるようになったんですね。ということで、初めて伝統構法が建築基準法の枠組みの中で合法的に設計されるという風になった訳です。ところが先程のように2007年に建築基準法が改正されて、それ以降、限界耐力計算を使うと非常に大変な手続きになりますよ、という様なことで、現在、伝統構法の着工等も少なくなっております。こういった限界耐力計算を使ったら規模にかかわらず適判を受けるとか、そういったところを建築基準法の運用の改善もしていただきたいと。一方、我々も検討委員会の中では、そういったことをした場合に技術的にどうなるのか、という風な検討をしっかりとやっていくということで、現在、その方向で進めております。

次に、伝統構法の設計法ですが、これを実務の中で実際に使っていただけるような設計法にしたい、ということで、設計法の構築が大きな目標になっております。先程も申しましたように、伝統構法には構造力学的にまだ解明されていない部分がたくさんございます。ここにありますように礎石建ての場合ですと、柱脚が礎石の上で滑ったり移動すると。これに関しては、これまでも実験をやっているので、確かに滑る訳ですけれども。じゃぁ、どのように滑るのか、どの位滑るのか、そういうところがキッチリとまだ把握できていない。こういった滑り量も設計で制御できるようにならなければ、設計法としてなかなか使っていただけないだろうということです。

それから伝統構法ですと水平構面、例えば床構面、これを剛に作ってはいない訳です。ということで、床構面そのものが地震の時に変形をしますよと。こういった変形の効果、そういったものを解析的にキチッと扱って、最終的には設計法に持って行くということです。それから、伝統構法は大きな変形性能がございますけれども、この大きな変形性能を担保しているのは、仕口の接合部なんですね。こういったところの構造力学的なメカニズムだとか、或いは細部の設計をできるかというと、現在のところは細部の設計が先にあって仕口が決まるのではなくて、先に仕口が決まってとかいう状況ですので、やはり細部の設計もキチッと出来るようにしましょう、ということです。

こういった伝統構法の大きな変形性能、これは非常に伝統構法の持つ大きな特徴なんですね。この良さを生かしながら設計法に組み込んで行きますよ、ということです。

ここにありますように、柔構造・剛構造という風な形でよく言われます。伝統構法はどちらかと言えば柔構造ですよ、という風な表現がよくされるのですが、実はそうでもないんですね。実は我々の設計法、これは耐震設計の基本理念なんですけれども、耐力と変形性能、この二つを加味して設計していくと。これが本当の意味の耐震設計の基本なんです。伝統構法だから、柔らかいから、柔構造だから、そういう風なものではないんですね。それで、最近の現代的な構法の建物ですと、どちらかといいますと耐力勝負で、あまり変形性能は見ないで耐力だけを見て行くというのは、どちらかというと剛構造です。

実はこれ、随分前に、柔剛論争なんていうのがございましたけれども。その柔剛論争に決着を付けましたのが、京都大学の棚橋諒先生なんですけれども、ここにありますように、柔でもない剛でもないですよ、と。それで建物が変形して塑性期に入って、エネルギー吸収を起こしながら、というのが耐震という意味ではいいのですよ、というお話なんですね。ということで、柔剛論争の決着が付きまして、現在、世界のどこでもこの青色で書いたような、こういう風な設計の理念で耐震設計がなされています。という風なことで、伝統構法もこの耐力と変形性能、両者を加味したような設計法に持って行きたいと、そういう風に思っています。

それから、新しい設計法をこれから作るんですから、現在の建築基準法、特に木造の規定ですね、そういったところに捉われない自由度の高い設計法にしていきたいと。それでも多くの方々は、要は木造の仕様規定、或いは身に沁みついていますので、ほとんどの方はその呪縛から逃れられないという風な感じで木造の建物の設計がなされているだろうと思います。ということで、まずはその仕様規定、こういったものを頭の中から除いていただいて、新しく伝統構法の建物をどういう風に設計すべきかということを考えていただきたいな、と思っています。

それから変形性能、大きな変形性能と言いましたけれども、じゃぁどの位まで変形すれば建物が損傷したり、或いは崩壊するのか、これは設計のクライテリアに関わってくる問題です。こういったところをキチッと、伝統構法の建物に対して設計のクライテリアをしっかり設けて、それで検討して行くという風なことをしてきたいと思います。

それから、伝統構法では使われている木材、これが天然乾燥ですよ、そういう風な形で大工・棟梁さんなんかは材を選んでいるということなんですね。現在、木材として出回っていますのは高温乾燥が多いかと思います。ということで、天然乾燥と高温乾燥だとか、乾燥方法に依って、どういう違いが出るのか、これも科学的に見て行きましょう。 

それと、昨年度からこの事業の中でも、木材の欠点、節とか割れとかそういうものがある訳ですけれども、それがどの程度あれば軸組に使うのに不適合なのか、というという風なところもキチッと見て行きたいと思います。それから、伝統構法は昔ながらのものですので、長期寿命といいますか、それを誇っているものなんですけれども、これをキチッと耐久性、要は白蟻被害であるとか、要は耐久性をどの様に評価していくか、それからまた、維持管理方法にどういう風に持って行くかという様なところもキチッと検討して行きたいと思います。

それから今後、伝統構法の設計をしていただく時に、所謂仕口・接合部の復元力特性だとか、それから土壁の復元力特性だとか、色んなデータが必要になってきます。ということで、これは実験検証部会を中心に、こういった構造要素について実験を行って、データベースを、ということを考えております。という風なことで、実際に実務者が使いやすいような設計法を作って、というのが私どもの目標であって、それが出来た暁には、また、実務者の方、或いは行政担当の方々に、普及を図る意味で、講習会等とか、そういうことも企画をしたいと思います。

場建て構法も含めた伝統の実大の振動台実験を予定しております。実は、こういった伝統構法の建物で、過去にも京町家、これは2005年、それから伝統軸組のこういった切妻屋根ということで2007年に、それからこの事業でもA棟・B棟と呼んでおりましたけれども、2008年に振動台実験を行っております。 それで、今年はEディフェンス(三木市にあります大きな振動台)で、石場建て構法も含めた伝統の実大の振動台実験を予定しております。実は、こういった伝統構法の建物で、過去にも京町家、これは2005年、それから伝統軸組のこういった切妻屋根ということで2007年に、それからこの事業でもA棟・B棟と呼んでおりましたけれども、2008年に振動台実験を行っております。

検討委員会の目的と方針(part 2)
鈴木祥之委員長

これは2007年に行いました振動台実験ですけれども、この様に切妻屋根が2棟、そして足元は全て礎石建てです。これは少しビデオとして、ご覧いただきたいと思います。 実はご覧のように小壁は周囲に周っているんですけれども、所謂全面壁は一番奥側だけということで、非常に大きな偏心率になっています。これはわざとこういう風にしている訳ですが。そうしますと、こういったところは開放的なので、前面部が非常に大きく揺れます。そういったところをご覧いただきたいと思います。入れます波は、神戸の地震で観測されましたJMA神戸波です。 (実験映像)

ということで、前面部は開放的になっていますので、大きく変形はします。これでたぶん1/15以上揺れていると思います。実はこういう風にして大きく揺れますけれども、所謂損傷そのものはそれ程ない訳ですね。ご覧いただきましたように、この足元のここのところは少し滑っています。実はこちらの方から先程ご覧いただいたんですが、ここには全面壁の土壁が配置されているということなんですが、こちらの方は大きく揺れましたけれども、足元の滑り方はどうかということなんですね。丁度、全面壁の下の柱の動きを見ていただきます。すごく早く動きますので、瞬きしないで見て下さいね。

ということで、柱脚、特に上に剛性が高いというか、耐力が大きなものが配置されているところは滑りやすくなります。これは、所謂力学の原理なので、そのままお考えいただければいいかと思います。先程CCDカメラで映像が途切れたような感じで、必ずしも追跡されていませんが、こちらがレーザーで測った足元の動きです。

ということで、20㎝位は悠に動いているんですね。ということで、足元が滑ることに依って、実はこちらが振動台のテーブルの動きです。こちらが桁レベルの動きなんです。これとこれを比較していただきますと、そんなに大きくないと言いますか、増幅していないんですね。というのは、丁度柱脚のところの滑り、地震力が大きく入ってきて、建物の動きが大きくなると共に足元が滑り始めるという風な傾向があります。という様なことで、一種の免震だとか言われる方も居りますけれども、私どもは免震という風には捉えていないんですね。免震はもう少しそういった足元のところをもう少し工夫してということなので。これは伝統構法の建物ですので、石場建てで、そのままの状況です。ということで 少しはこういう風な形で柱脚が滑ったらどうなるのかという風なところが少し解りかけてきているところなんですけれども。

今年のEディフェンスの実験では、柱脚の移動が建物の耐震性能だとか、そういうものにどういう風に影響を与えるのか、滑った時にどの位滑るのかだとか、そういったところをキチッと調べて行きたいと思っています。

動的摩擦係数、摩擦係数には静的と動的がある訳ですけれども、どちらかというと、動的摩擦係数の方が設計に持ち込むにはいいのかなと思っております。ということで、所謂、柱と下の礎石、礎石の石の状況だとか、表面の磨き方に依って違ってくるだろうという風なことを考えていますので、そういった摩擦係数をしっかり調べていくという様なこともやっていきます。

それから現在、限界耐力計算だとか色んな解析法を使って、地震時の応答を予測するという風なことをやっていますが、偏心だとかで捻じれた場合、先程の水平構面が変形した場合だとか、そういうものも含めて、設計法に持ち込む場合には、解析がキチッとできるのか、という風なところの検証もやっていきたいと思っています。

今の壁量計算で設計しますと、1階の壁量がいくつ、2階の壁量がいくつ、という風なことで、ほとんどの方はこの数値をクリアすればOKですよ、と。私どもはクリアするだけではダメですよ、と。どの位、クリアしているのか、と。特に2階なんて求められている壁量以上にクリアが過ぎる、ということなんですね。ということは、2階が非常に硬くなって、耐力も大きくなる、ということで、実際の地震の時に2階はほとんど変形せずに1階だけが変形して、ということで、1階崩壊型に繋がっていくんですよ、と。1階と2階のバランスを取るような設計法を考えていただきたい。ということで、まずは我々の方でどういう風にすれば1階と2階のバランスが取れるような設計にできるのか、という風なところも考えていきたいと思っています。

ということで、実はまぁ、いつもこれを言っているのですが、伝統構法は長年の大工・棟梁の智慧とか技法が盛り込まれている訳です。従来、そういった技とか技法、これを反映するのは難しい。要は木材のめり込みであったり、摩擦であったり、仕口の形状に依って、色々メカニズムが変わってきますよ、だとか。精緻なそういった研究を通じて、こういった伝統構法の技とか智慧が反映されれば、それは即、先端の技術になるのではないか、ということなんですね。今日はもし、若い研究者の方々が来ておられたら、そういう目で見ますと、伝統構法は研究対象としては非常に奥深いものがありますので、是非トライしていただきたいと思います。先程も申しましたけれども、伝統構法だけが今、長期優良住宅といいますか、長寿命の実績を誇っている訳ですね。ここももう少し所謂耐震だとか、台風だとか、火災だとか、そういうものも含めて、耐久性、こういった維持管理法をキチッと開発していけば、さらに長寿命になり、木造の質も上がって行くんではないか、という風なことを考えております。ということで、伝統構法は最先端の技術になり得る訳なので、皆さんもそういう目で伝統構法を見ていただきたいと思います。

最後に、伝統構法の良さを生かすような形で、伝統構法にふさわしい設計法を作って行こうとしておりますので、そこには実務の方々とか多くの方々がこの検討委員会にも参加していただいております。そういった方々の叡智等を結集して、これから取り組んで行きますので、よろしくお願いします。