公開イベント
 

全国6ヶ所キャラバンツアー 講演会「知恵と工夫の設計—伝統建築に学ぶ」
新しい設計法

伝統的構法による木造建築物のこれからの設計法の考え方について

設計法部会の齋藤幸雄主査による講演

新しい設計法の主なポイント

「在来工法」とは性質の異なる、「伝統的構法」のための設計法

現在、検討委員会で作成している新しい設計法は「伝統的構法」のためのものです。伝統的構法とは、日本の木造建築が明治後期以降、西洋の建築学を取り入れて「在来工法」へと変化していく以前の「伝統構法」をベースにした、将来にわたって継承すべき構法です。検討委員会で作成しているのは、この伝統的構法の設計法です。(詳しくは「伝統的構法の定義」のページをご参照ください)

伝統的構法の設計法では、(1)土塗り壁などの伝統的な壁を基本とし、今まで評価のなかった小壁も考慮(2)板張りなどしなやかに変形する床(3)基礎にとめつけない足元フリーの石場建てを含むという3点において(1)壁量規定(2)剛性の高い床(3)柱脚固定により建築基準法施行令や告示の仕様規定で位置づけられる在来工法とは、大きく異なっています。

標準・詳細・汎用の3つの設計法

検討委員会がつくる新しい設計法は、このような伝統的構法の特質を活かすものとして策定されており、標準・詳細・汎用の3つの設計法で構成されます。4号規模の基本的な伝統的構法住宅であれば、標準設計法でカバーします。標準設計法は、柱脚の仕様に応じて、柱脚の水平・上下方向に移動しないように拘束する設計法A、水平方向のみの移動を拘束する設計法B、水平・上下方向とも拘束しない設計法Cの3つに分かれており、いずれも比較的簡易な計算と仕様規定で設計できる方法です。

また、住宅より規模の大きい社寺建築にも用いることのできる詳細設計法、さらに自由度をもたせ、時刻歴応答解析で導かれる汎用設計法をも用意しています。標準設計法から汎用設計法まで、どの設計法も「ごく稀地震でも倒壊や崩壊に至らないだけでなく、損傷を修復可能な範囲にとどめる」ことを目標として作成しています。

設計法を作らねばならなかった理由と、今後の展望

この設計法が求められている背景として、1950年の建築基準法制定以来ずっと、伝統的構法に法的な位置づけのない状態が長く続いてきたことがあります。建築基準法には木造軸組は在来工法しか位置づけられておらず、その物差しで伝統的構法をとらえるのは、もともと矛盾や無理がありました。

ことに、性能規定化をもりこんだ2000年の建築基準法改正により、石場建ての伝統的構法であっても、限界耐力計算を行うことで建築可能となっていたにもかかわらず、運用を厳格化する2007年の建築基準法改正で、限界耐力計算を用いる場合は構造適合性判定が必要となり、そのコストや手間のために実質的に建築が困難な状況にまで追いやられてしまいました。

こうした伝統的な木造建築が将来に継承され得ないような困難な状況を打開するために、伝統的構法の性質に合った設計法が求められるところとなり、国土交通省の補助事業として現在の検討委員会のもとで設計法が作成されるようになったわけです。伝統的構法のための設計法を発表した暁には、検討委員会としては、これが研究成果として終わることなく、実務で使えるようになるよう、国土交通省に法的な整備を求めていく所存です。

配布資料の関連ページ

Ⅰ 伝統的木造建築物のこれからの設計法の考え方について
設計法部会 齋藤幸雄主査
PDFをダウンロード(10ページ 1.2MB)