公開イベント
 

全国6ヶ所キャラバンツアー 講演会「知恵と工夫の設計—伝統建築に学ぶ」
東京会場

東京芸大での講演会は、これからの木造住宅を考える連絡会の主催で行われました。今回の講演キャラバンツアーの中で唯一の首都圏での開催ということもあり、当日の一ヶ月前に定員がいっぱいに埋まるほどの盛況ぶり。当日は、どしゃぶりの大雨という悪天候の中、秋色の深まる上野公園を抜けて東京芸大へと、講演会に参加するために大勢が続々と集まってきました。

会場となった東京芸術大学の中央棟1F第一講義室

3時間のプログラムは、まず前半で、設計法部会の齋藤幸雄主査から現在構築中の設計法についてのお話がありました。標準設計法で4号程度の伝統木造の石場建て建物について、柱脚の移動が水平・上下方向ともフリーなものから、水平・上下方向とも拘束するものまでをカバーするというお話に、会場のみなさんは期待をもったようです。

設計法部会の齋藤幸雄主査による「伝統的構法による木造建築物のこれからの設計法の考え方について」の講演。記録ビデオは「新しい設計法」のページでご覧いただけます。

休憩をはさんで後半は、構法歴史部会の麓和善主査と実務者委員の上田忠司さん(竹中工務店設計本部 伝統建築グループと上野英二さん(オークビレッジ木造建築研究所)から伝統構法の定義についてのお話がありました。北は岩手から南は奄美大島まで、各地で現代にまで受け継がれている素晴らしい木造住宅の写真や図面をスライドで見せていただきながらの麓先生の魅力的な報告のあと、事例調査から見えて来た伝統構法に共通の「知恵と工夫」について、上田さん、上野さんからお話いただきました。

構法歴史部会の麓和善主査による「伝統的構法の定義」の講演。記録ビデオは「伝統的構法の定義」のページでご覧いただけます。

構法歴史部会の上野英二委員、上田忠司委員による「事例から学ぶこと。民家調査から見えた知恵と工夫」の講演。記録ビデオは「伝統的構法の定義」のページでご覧いただけます。

最後に、麓先生から、濃尾地震以降、西洋の建築学の筋交いや火打といった三角構造や金物接合、柱脚固定を取り入れた洋風構造として在来工法が成立した経緯について、建築学会で発刊する「構造用教材」の変遷を追いながらの、興味深いお話、そして、在来工法になる以前の伝統構法のあり方の定義について、まとめがありました。参加者のみなさんも、大分、頭の中がスッキリと整理されたようです。

こうした伝統構法の諸要素のうち、将来にわたって継承して行くべきエッセンスを伝統的構法とよびます。一字つけ加わったこの「的」という字は「マト」とも読みます。「マト」には、向かって行くという意味があり、伝統構法の中の将来に残すべきよい部分を「伝統的」構法と呼ぶのだという説明が、司会の松井さんからあり、「伝統的構法」のイメージを分かりやすくつかむことができました。

司会を務めた構法歴史部会の松井郁夫委員

伝統的構法のための設計法が使えるようになるためには、国交省で設計法を告示化するというプロセスが必要となります。今ある建築基準法の在来工法の記述をいじるのではなく、枠組み壁工法や丸太組のように、伝統的構法の告示をつくるという方向で、国交省に提案していく、という齋藤先生の力強い言葉に、会場から拍手が起きました。

全体の印象としては、伝統的構法の定義もよく整理され、柱脚を固定しない石場建てについても標準設計法でカバーされるということで、会場の多くが検討委員会から出る設計法に期待をもったというような感触がありました。(文責/持留ヨハナ)