検討委員会の概要
検討委員会委員長ごあいさつ

検討委員会委員長よりごあいさつ (2012年度)

鈴木 祥之(立命館大学 立命館グローバル・イノベーション研究機構 教授)

「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験」検討委員会の目的は、 石場建て構法を含む伝統的構法木造建築物の設計法について検討を行い、 実務者が実践的に使える設計法を確立することです。

これまで、当検討委員会では、 設計法部会、実験検証部会、構法・歴史部会、材料部会の4つの部会を設け、 石場建ての柱脚の移動、ねじれ振動、水平構面の変形、 1階・2階の剛性・耐力バランスおよび通し柱効果など 伝統的構法の構造力学的に未解明な課題を解明するために、 E-ディフェンスでの実大振動台実験などを実施し、 実験的、解析的な検討を行ってきました。

また、伝統的構法に特有の土塗り壁、継手・仕口接合部など 構法仕様の地域性や歴史的背景とともに構造特性を実験的に把握し、 伝統的構法に使用される木材の欠点、乾燥方法、耐久性などの検討を行ってきました。 2012年度は、伝統的構法に適した設計法確立に向けて、次のような活動をいたします。

2012年度の目標〜伝統的構法に適した3種の設計法の提案

伝統的構法に適した設計法を構築するために、 設計のクライテリアなどの検討とともに 次の3 種類の設計法を検討しています。

1 標準設計法: 限界耐力計算によらない簡易な設計法で、 構造計算適合性判定を適用除外でき、実務者が使いやすい設計法

2 詳細設計法: 現行の限界耐力計算と同様な近似応答計算法をベースにした設計法ですが、 実務者が使える設計法として、 構造安全性の検討項目等を検討・整理したもの

3 汎用設計法: 詳細なモデル化のもとに時刻歴応答解析をベースにした設計法で、 標準設計法や詳細設計法では適用できない伝統的構法木造建築物にも 適用する設計法

これまで、これらの設計法の骨格を形成してきましたが、 今年度は、さらに詳細な検討のもとに 石場建て構法を含む伝統的構法木造建築物の設計法として提案します。 この目的を達成するために、各部会では、 次のような活動をいたします。

■ 設計法部会〜設計法作成WGと課題検討WGによる新体制

設計法部会では、効果的・効率的に設計法を構築するために、 これまでのWG を解消し、 設計法の作成を行う設計法作成WG 、 設計法作成のための課題を一括して検討する課題検討WGの 二つのWG に再編する新体制とします。

平成24年度第1回検討委員会(6月1日開催)で、この方針が了承されましたので、 今後、設計法の構築に向けた取り組みを加速させ、 当初の目標通りに設計法を提案することを目指します。

■ 実験検証部会〜9月のE-ディフェンス実大振動台実験とデータベース構築

実験検証部会では、再度、実大振動台実験を実施して 設計法や解析法の検証を行い、設計法の構築に生かします。

今年度のE-ディフェンス実大振動台実験は、 これまでの平屋や層2階建てとは異なり、 伝統的構法で一般的な下屋付き、部分2階建てを対象に、 9月に実施予定です。 詳細は、このメールマガジンやWebサイトでお知らせします。

また、設計に不可欠な構造要素の復元力特性などを 設計者に公開するために、設計用データベースを構築、 当検討委員会で得られた実験データなどを 広く研究者等が利用できるようにデータライブラリを充実させます。

■ 材料部会〜天然乾燥や古材の科学的データ収集と耐久性マニュアル作成

材料部会では、伝統的構法木造建築物の設計・施工に役立てることを課題とし、 天然乾燥された無垢材について適正な評価に資する科学的データ、 古材について実務者が必要に応じて安心して再利用できる道筋を拓くためデータを取りまとめます。 また、伝統的構法の劣化調査結果を取りまとめて耐久性マニュアルを作成します。

■ 構法・歴史部会〜構法キャラバンの実施

構法・歴史部会では、昨年度までの事例調査および文献調査の成果をまとめ、 伝統的構法を一般の実務者に広報するための伝統的構法普及活動 (以下、構法キャラバンと称します)を、 各地の伝統的構法に関心のある建築関係団体等の協力を得ながら、全国的に展開します。

限界耐力計算による設計マニュアルの作成と普及

一方、当面の課題として、伝統的構法木造建築物では限界耐力計算による確認申請が難しく、 工事の着工が著しく減少しており、この伝統的構法の危機的状況を改善することが急がれています。

そのため、確認申請・構造計算適合性判定の円滑化のために 限界耐力計算による構造設計の技術的検討を早急に行い、設計マニュアルを作成、 今後、伝統的構法にかかわる実務者、行政担当者などへの 普及を図ることを予定しています。