NPO法人 緑の列島ネットワーク NPO概要 | アクセス | リンク


中越地震建物被害第一回報告書

日時:平成16年11月12日〜14日

NPO法人緑の列島ネットワーク、職人がつくる木の家ネット協同による
鈴木有氏(元 秋田県立大学 木材高度加工研究所教授、当法人相談役)を始めとし有志会員メンバーによる 栃尾市での第一回先遣隊ボランティア体験中間報告をいたします。

被災木造住宅の修復支援グループ 
代 表  鈴 木  有 
事務局長 渡 邊  隆 
(NPO法人緑の列島ネットワーク会員、職人がつくる木の家ネット会員)

栃尾市住宅相談窓口を担当した経験に基づく報告書(要点)

□木造住宅構造の特徴

●3つの型に分類
・栃尾市内にある木造住宅は、大きくは次の3つに分類できそうです。
  (1)中心市街地の街道沿いに並ぶ伝統的な「町家住宅」
  (2)山間地の集落に多い昔ながらの「農家住宅」
  (3)近年建設された高床式を含む「現代仕様住宅」

●民家構法の特徴
  • 上記分類の(1)と(2)について、その地域的構法の特徴を以下に要約します。
  • 栃尾の民家構法の特徴に触れる理由は、こうした民家が栃尾独自の街並みや集落をかたちづくり、美しい佇まいを形成しているので、これからも改善しつつ基本は継承して欲しいと考えるからです。
◇屋根:
  • 主屋根は切妻形式が基本で、その妻面には水平梁と束(短い柱)を組み合わせた木組みを見せる。
  • 1階の周囲に下屋が取り付く建家が多い。
  • 大屋根は腕木と出桁で支える「せがい造り」で軒が深い。
  • 古くは茅葺き、そして瓦葺きに、近年鉄板葺きに替えたものが多い。
◇外壁:
  • 土壁の上に板を張る造りが殆どを占める。
  • 古い建家では、粗挽きの幅広薄板を横張りして、継ぎ目に縦目地板を打ち付けている。
  • 時代が下がると、製材の板を横張りし、狭い間隔の縦桟で抑える南京下見板張りになる。
◇軸組:
  • 柱梁の部材断面は一般地域よりも大きめである。
  • その接合部は伝統的仕口工法の基本を守っており、丁寧で上質と見なしうる。
  • 1階の中心部には、壁の少ない田の字型間取りが多いが、ここを支える柱の上部には大抵、太い指物を通して、その上部には土塗り垂れ壁を配置して固めている。
  • 総じて、冬季の重い積雪に耐えられるように、木組みは堅固に造られている。

◇床組と基礎:
  • 床組は全体に簡素で、他の地方に比べると床高がかなり低い。
  • 建家の外周には側土台を回し、内部は一般的な束(床を支える短い柱)無しで、大引(床板を載せる根太を支える横架材) を直接基礎石に載せる造りが多い。
  • 基礎は、玉石を半ば土中に埋め込み、軟石を切り出した角石(コマ石と呼ばれている)を置いて、  そこに上部の建家を載せるのが一般的である。
□住宅被害に関する所見

●地盤災害が建家被害の引き金に
  • 栃尾市域の山間地の表層地盤は脆い土壌で構成されているように見受けられます。
  • 加えて、山間部の集落は大抵、急な斜面の一部を平坦に造成して建家の敷地を設けています。
  • この種の敷地では、次のような地盤の崩壊や変動が生じており、こうした敷地地盤の変状が原因となって、建家の被害を引き起こしている場合が大半を占めていました。
  • 山間の傾斜地にある敷地の法面(段差のあるところの傾斜した地表面)は、多くは補強工事が殆どされないままで使われており、  こうした敷地の前面や側面が崩落、或いは背後に迫る斜面が滑落していました。
  • 法面の崩落に引きずられて、敷地平坦部も表層部が流動したり沈降したりしています。
  • 今年7月の豪雨災害による崩落箇所が、今回の地震でさらに拡大したところも少なくないとのことでした。
●基礎と床に被害が集中
  • 上記した敷地地盤の変状のために、その上の建家は、基礎や床や柱が全体に或いは局所的に引きずられたり、不同沈下を生じたりしていました。
  • そのために、建家が全体に或いは一部が傾いたり、床が落ちたり沈んだり、床組が壊れたりしていました。
●上部架構の損壊は少ない
  • しかしそれにも関わらず、全般に、建家を支える柱と梁の基本の木組み、そして重い雪と屋根を支える小屋組の被害は意外に少なく、  土壁の亀裂や崩落は多く見られましたが、基礎や床がひどくやられていても、上部架構はしっかり立っている建物が多いのです。
  • そのなかで、上部架構にも顕著な被害が及んでいたのは、支持地盤の崩落や滑動が過大であった場合に加えて、もともと構造欠陥を抱えていたり、腐朽により耐力の劣化が進んでいた建家です。
  • 例えば、壁のあったところを取り払って全面を開口部にした建家では、足元が大きく開いて壁が傾いてしまっていました。後の改造により構造欠陥を生じた事例です。
  • また、平坦地の建家なのですが、低質の古材を再使用して造り、維持管理も行き届いていないものでは、軟弱な地盤の沈降で床が大きく波打ち、木組み架構の本体も顕著に傾いておりました。
●上部架構の損壊が抑制された原因を推測する
  • 本震そして最大余震時の山間地の揺れは激烈で、しかも敷地地盤の変状がこれほど顕著だったのに、その上に立つ建家の上部架構の損壊が少なくて済んだのは、次のような理由に拠ると推測されます。
  • 多雪地域であるこの地の建家は全て、屋根積雪への備えが不可欠です。
  • 重い雪質で、常時は1m、最大では2m以上にも及ぶ屋根上積雪の極めて大きな鉛直荷重に耐える木造架構が、どんな建家にも備えられていました。
  • 伝統の構法では、長い年月の経験に裏打ちされた堅固な木組みの構造体(専門用語を使うと「半剛節木造ラーメン架構」)が組み込まれてきたのです。
  • この木組みの構造体は、今回の激烈な地震力にも有効に機能したと考えられます。
  • 力学的に言うと、鉛直荷重に粘り強く耐えうる「ラーメン架構」は、水平力にもしなやかに耐えることが分かっています。
  • 他方で、上に記した特徴ある簡素な基礎形式は、地震の揺れや力が建家に伝わるのを低減したとも考えられます。
  • 即ち、大引と側土台で組まれた床組を礎石に載せるだけの支持方式が、激烈な揺れを受けたとき、上部架構がここで滑ったり跳躍したりして、一種の免震的な働きをしたのではないかと推論されます。
  • 現に、床組が元の位置から少しずれていたり、部分的にコマ石が飛んだりずれたりしていた建家が少なくありませんでした。
  • この基礎と支持形式は、一面で、地盤の変状に対しても柔軟に追随し、上部架構に無理な力を掛けることが少なくて済んだとも考えられます。
□今後の課題

●敷地とその周辺の地盤被害がさほどでなく、今後の発生危険が小さい場合なら
  • 上部架構への影響や被害が極めて顕著と言うまでには至らなかった殆どの建家は、修復して住み続けられると判断します。
  • この場合には、以下の諸点が課題になります。
      (1)適切な修復の方法が選択出来るか
      (2)修復の人手が確保出来るか
      (3)費用を含めて修復への支援体制が取れるか
●敷地とその周辺の地盤被害が顕著で、今後の発生危険も大きい場合には
  • それでも多くの建家の修復は可能と考えます。
  • しかし、余震の襲来、積雪時や融雪時の危険を避けるため、今冬の居住は避けるべきでしょう。
  • 居住者が建家を修復して使用したいと望まれるなら、積雪と雪解けによる地変の有無と経過を確認した後に、可能かどうかの判断をするのが良いと考えます。
  • この場合には、以下の諸点が課題になります。
      (1)被災した建家が今冬の積雪に耐えられるかを適正に判断出来るか
      (2)特に雪下ろしが通常のようには出来ない事情を考えて、
       更なる損壊や倒壊を避けるために適切な補強方法を選択出来るか
      (3)補強の人手が確保出来るか
      (4)費用を含めて補強への支援体制が取れるか

□若干の提案

・唯一度ほんの僅かの日数しか御地に滞在せず、事情を充分把握しないままに、このような提案をするのは、僭越とは思いますが、これからの対処について、敢えて若干のコメントを記させていただくことに致します。

●今後の住まいの復旧復興について
 総括的に相談出来る窓口の設置と人材の確保

  • 住宅の復旧と復興に関わる住民の要請は多様で多彩です。他方で、経済的な面を含めると、行政側の支援の仕組みも複雑で、多くの担当部課にまたがります。
  • 住まいの復旧復興については、被災者があちこち走り回らなくても済む総括的な単一の相談窓口が、行政機構の対処の工夫によって設けられるよう期待します。
  • 阪神・淡路大震災や鳥取県西部地震の経験からも、地域の本格復興に向けて、住まいの回復が最も根幹になる施策であったからです。
  • ところで、今回の住宅被災の特徴から見ると、応急対処や修復の技術的な方法に関わる要点として、特に、以下の内容を相談出来る機能を持った窓口と対処能力を持った人材の確保が求められると考えます。   
     (1)敷地地盤の危険性の判断とその補強方法を含めて
     (2)被災家屋が今冬の積雪に耐えるための補強方法について
  • 行政だけでの対応は困難でしょうから、地元を良く知る建築組合や土木系コンサルタントとパートナーシップを組んで、支援の体制を作られるのが望ましいと考えます。
  • また、私たちのグループを含めて、市外や県外からの応援も上手く受け入れて活用される体制をお取りになり、地元の人材との協同行動で活動出来る仕組みを工夫されたら如何でしょうか。
●被災家屋の補強や修復についてのマニュアルの準備
  • 上記の経験を積んでいく過程で、応急対処や住み続けるための補強や修復の技術的な方法が見えてくると考えられます。
  • それらをなるべく早くまとめて、「栃尾方式の技術マニュアル」を作られてはどうでしょうか。
  • そのマニュアルを建築組合の組合員さんをはじめ、地元の関係者に渡るようにすれば、蓄積されていくノウハウが活用され、適正な補強や修復の方式が普及していくと期待されます。
  • このようなマニュアル作りなら、外部からの支援者も参画してお手伝いしやすいと考えるのです。
●来春からの本格復興への備え
  • 住まいの本格復興は来春の雪解け後から始まることになるでしょう。
  • この間に、被災家屋やその敷地の状況も、積雪や雪解けの影響を受けて変わっているかも知れません。
  • 雪が無くなれば、修復工事が集中して、地元の手だけでは不足するような状況が生じるかも知れません。
  • それまで暫くは時間があります。そこでこの期間に、上記したような体制作りを進められ、我々のようなグループも可能なところに活用して下さる仕組みと受け入れをお考えいただきたい、と望んでおります。
    以上
   
 ▲このページの先頭へ  
 (C)NPO法人 緑の列島ネットワーク 〒450-0003 名古屋市中村区名駅南1-3-15 サントピアビル3F
tel: 052-566-0064 fax: 052-566-0074